築地で世界のお祝い料理を楽しむ会第5回スペイン 「春の到来を祝う!バレンシアの火祭り”塩豚とカボチャのパエリア”」報告
バレンシアの春の火祭り“ファジェス”をお祝いするパエリアとはどんなものなのでしょうか?
数ある東京のスペイン料理店でも多分メニューに上ることのない、特別なパエリアを今回皆さんとシェアしました。日本のおじやの原型とも言われる、煮込み料理“オジャ”とバレンシアの郷土菓子“かぼちゃのブニュエロ”もいただきました。
バレンシアの伝統的なパエリアはウサギや鶏、たまにカタツムリ、野菜はインゲンやアーティチョークなどがよくつかわれるそうですが、今回教えて頂いたのはそれらとはちょっと違う、かぼちゃと塩豚(パンセタ)そして生ソーセージのシンプルなパエリアです。
今回の講師、高森シェフのレストランで以前バイトをしていたバレンシアの女性がお祖母ちゃんの味として教えてくれたというバレンシアの家庭レシピです。そのバレンシアの家庭のレシピを家でも美味しくつくれるよう、高森シェフがきっちりと伝授してくださいました。
春の風物詩“ファジェス”の頃になると、バレンシアの家ではよくかぼちゃが食卓に上がるそうです。今回いただいたお菓子ブニュエロもかぼちゃのペーストを混ぜた揚げドーナツですが、かぼちゃは庶民的な旬の食材として、さまざまな料理やお菓子で使われてきたのでしょうね。
パンセタというのはいわゆるイタリアのパンチェッタと同じで、豚肉の塩漬け保存食品です。せっかくの機会なので、今回はイベリコ豚のブロック肉を事前に手に入れ、パンセタに仕込みました。
イベリコ豚の脂はサラッとしていて、手についた脂分も冷水で洗っただけですーっと流れていきます。肉の匂いもクセがない感じがしました。オレイン酸たっぷりのイベリコ豚の脂はドロドロと血管に詰まるという事はなく、かえって血管を強くする働きがあると高森シェフも言っておられました。どんぐりを沢山食べて放牧でのびのび育ったイベリコ豚です。
命を頂くというのはひとことで言うと簡単ですが、言葉上のことだけではなく、その生き物の生きてきた過程をしっかり知った上で思い至る、という一連の意識を大事にしたいと常々思います。そして、郷土料理やハレの日の料理というものは、そういう点でも食材の背景がしっかりしている事が多いのではないかなぁとあらためて感じました。
閑話休題。
さて今回、家庭料理のパエリアを教えて頂いたことで私の中でパエリアのイメージが変わりました。
家でよく作っている私の“なんちゃってパエリア”は超我流で、試行錯誤の結果、ターメリック(高価なサフランの代わり)、パプリカ、クミンなど多くのスパイスを使い、トマトソースも入れて、いったい何料理なんだか分からないレシピになっていて、それはそれで満足して食べてはいたのですが、認識を新たにしました。
意外ですが、そもそもスペイン料理ではあまりスパイスを多用しないそうなのです。
え、でもパエリアはサフランを必ず使いませんか・・と思いますよね?
実はそれは絶対ではなく、始まりの頃のパエリアはサフランなしだったそう。「サフラン色したパエリア」というイメージが定着しているので、より観光向けのレストランでは使うそうですが、サフランを使わないパエリアレシピも沢山あるそうです。
ふむふむ、そうなるとパエリアをつくるために無理して高価なサフランを買う必要はなさそうです。パエリアにサフランを使うようになった経緯も知りたくなりますが…。まずはパエリアを料理するハードルが一つ下がりました。
パエリア以外の料理でも、使うとしてもスパイスではなくローズマリーなどのちょっとしたハーブを加えるくらいで、コショウですら使わないこともあるそうで、よく考えれば、それって食材が豊かである証拠なのかもしれないですね。
実際今回教わったパエリアレシピの調味料はなんと塩のみでした。洋風料理では多用されるコンソメもなしで、塩豚や生ソーセージから出るうま味にかぼちゃのほんのりした甘みが加わり、そこにほんの少しの塩分を足し、レモンをぎゅっと絞る。
それだけで極上のパエリアの出来上がりです!考えると美味しそうでしょう?
それだけと言いましたが、そこが腕の見せ所でもあり、大事なのは火加減と具材を入れるタイミング、それに良い食材をつかうこと、という事が分かりました。
それはシンプルで美味しい料理の作り方の鉄板なのかもしれませんよね。
私の我流パエリアレシピがちょっとシンプルになりそうです。
さて、高森シェフからスペイン各地のパエリアの話や各地域の食文化の違いなどお話を伺いながら、オジャの煮込みや美味しいパエリアづくりが進んでいきまして、ひととおりのデモンストレーションのあとは各テーブルでかぼちゃと塩豚のパエリアづくりに取り組みました。
シェフの調理台ではオジャがぐつぐつと煮込まれました。オジャが日本のおじやの原型かどうか、結局定かではないのですが、塩豚、鶏手羽、豆、そして野菜をこれでもかと入れた煮込みは見るからに滋養たっぷり。これ一皿で必要な栄養がしっかり摂れてしまう万能家庭煮込み料理であることは間違いです。
日本のおじやのように米を煮込むわけではないのですが、頂き方に段階があって、ごろっと煮込んだ具材やスープを味わったのちに、締めでショートパスタを入れて煮て食べるそうです(今回はショートパスタはなしでしたが)。その段階的な食べ方は鍋とも似ていて“オジャ”と“おじや”は何かしらの繋がりがあるのかもと思えました。
カボチャのブニュエロはかぼちゃ入りの揚げドーナツで素朴な屋台菓子の趣です。高森シェフによれば、スペインの揚げ料理はなかなかに好みが分かれるところらしく(カリっとはしていない)、ぜひバレンシアで実際のかぼちゃのブニュエロを食べて確認したいです。今回のブニュエロレシピはイギリスをメインにヨーロッパ方面の菓子に詳しい中路理恵子さんに協力していただき、チョコソースをつけて美味しくいただきました。
今回も楽しく和やかに会を終えました。
参加者の皆さまから感想をいただいたのでご紹介。
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「高森シェフの解説が的確で、簡単にスペイン料理が作れることがわかった。」
「パエリアの基本的料理方法やスペイン各地方でのパエリアの違いを教えて頂きながら、美味しいパエリアとコシードを頂けました。イベリコの塩豚、最高でした。」
「既存のレシピの固定概念と異なった、パエリアの調理工程に学びがありました。
講師の方のお話もとても興味深く、一緒にお料理した方達もとても良い方等で楽しい時間を過ごせました。また、パエリア作りのポイントや、出来上がりの味、食感を体験できました。」
「調理するだけでなく、高森シェフのお話しが伺えたこと。また、気さくに質問に答えてくださったので、スペインの文化や風習について知ることができた。」
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高森シェフ、そして参加者の皆さまご参加ありがとうございました。 次回は4月ハンガリーのお祝い料理を紹介する予定です!
お楽しみに。