ハンガリーの一石三鳥、春のおもてなし料理
2026年4月16日(木)、築地魚河岸キッチンスタジオにて
「築地で世界のお祝い料理を楽しむ会 第19回 ハンガリー」を開催しました。
今回のお祝い料理会のテーマは
「一石三鳥、春のおもてなし料理」。
講師は三木フォルヌス・イベットさん。
第6回の時にイースターの四つ編みパンを教えてくださり、今回2回目の登場です。
ハンガリーの一石三鳥の料理とはどのようなものなのでしょうか。
一羽の鶏から主菜、ディップ、デザートまでのおもてなしが展開される暮らしの知恵をぜひ見てください。

伝統的なハンガリー料理とは?
伝統的なハンガリー料理というと思い浮かぶのはスープや煮込み料理。
その中でも有名な一皿にグヤーシュがあります。骨付き牛肉や根菜野菜をコトコト煮込み、パプリカの赤で彩り豊かに仕上げるハンガリーの煮込み文化を代表する料理です。そして今回取り上げるパプリカ―シュチキンも煮込み料理。
ハンガリーに煮込み料理が多いのは、近代以前は屋外で働く人が非常に多くいたからと、イベットさん。手早く、そしてしっかり栄養をとれる料理として煮込み料理が発達したそうです。
野外で働き、昼は大鍋を囲んで、みんなで食べる。
そんな風景が目に浮かびますね。
ハンガリーの国民的料理であるグヤーシュやパプリカ―シュは、そうした背景から生まれた一皿なのでしょう。
メイン料理 パプリカーシュ
さて今回つくったハンガリーの国民的料理でもある鶏のパプリカ煮込み「パプリカーシュチキン」。

イベットさんが子どもの頃、家族が集まる日には、お祖母さまが鶏を一羽しめてこの料理をふるまってくれていたそう。
家庭で飼っている鶏は大事な財産でもあります。このように自分たちにとっての大事なものを客人のために振る舞う料理は、お祝い料理会のメニューでも数多くあり、人を”もてなす”という意味で根源的な一皿なのかもしれません。
そしてグヤーシュと同じく、パプリカパウダーをたっぷり使います。ハンガリー料理ではパプリカは彩りと香りを加えるための欠かせないスパイスで、ハンガリーが主な生産地でもあります。
イベットさん曰く「パプリカは入れすぎても失敗しないスパイス」だそうで、今回も思い切りよく、どんどん使いました。辛味が苦手な私もよく使うスパイスの一つですが、今後は家でも思い切りよく使っていこうと思います。

野菜は出しのもと?
さて、料理中に印象的だったポイントがひとつ。
トマトや玉ねぎ、ピーマンなどの野菜を一緒に煮込むのですが、これは“だし”として使う役割。
くたくたに煮えた野菜は――
取り出して、捨てます!
ここでスタジオ全体がざわっとし、参加者の皆さんから思わず悲鳴と笑いが(笑)
「その野菜も食べたいです!」という声に、
「もう味は残っていませんよ」とイベットさん。
野菜好きとしては煮えた野菜を捨てるなんて・・と惜しい気持ちになりますが、日本でも出汁を取った食材を手放すことはありますよね。
ハンガリーでは煮込んだあとの野菜は、出しを取り終わったいりこや昆布のようなものかもしれません。
文化の違いが垣間見える瞬間でした。
こういうリアルな体験ができるのが面白いところです。
一石三鳥料理とは?
そして煮込みの合間に、ハンガリー風ニョッキ「ノケドリ」づくり。
ノケドリは卵と小麦粉を使ったハンガリーの伝統的なパスタ料理で主に煮込みやシチューなどに添えることが多いものです。
ハンガリーにはノケドリを作るための専用器具があり、今回はイベットさんが持参してくださいました。器具を使って、湧いた湯の中へノケドリの生地をどんどん落としていきます。

生地がぽとぽとと湯に落ち、小さな巻貝のようになって浮かんでくる様子は、見ているだけでも楽しい時間でした。
類似の道具にドイツのシュペッツレ用の器具があるそうで、ネットショップ経由で日本でも買えるそう。ノケドリはシュペッツレの影響で出来た料理でもあるそうです。ぜひ検索して探してみてください。
これが“一石三鳥”の二つ目です。
完成したパプリカチキンは、骨付き肉とノケドリを合わせて盛り付けます。

そして三つ目。
残った鶏肉を細かく刻み、ソースと和えてディップに。
それをクレープ生地で包み、サワークリームのソースをかけて仕上げます。
不思議なことに、これが同じ料理から生まれたとは思えないほど、
まったく違う味わいに変化するのが印象的でした。


さらに余ったクレープには杏ジャムを巻いて、デザートに。
もしかしたら一石四鳥・・?
一羽の鶏を余すことなく使い切る、家庭料理ならではの昔ながらの知恵と豊かさを感じます。
こうして出来上がったハンガリーの春のおもてなし料理を盛り付けて試食し、イベットさんのハンガリー食文化のお話を伺う事も出来ました。
今回のハンガリーのおもてなし料理では、野外の煮込み料理の伝統をお祝い料理にいかし、自分たちの大事な財産でもある鶏を使いながらも、ただ贅沢に使うといっただけでなく、食材は余すところなく大事に使うことにも工夫が凝らされていました。それは日本にも通じる感覚がありますね。また野菜を出しに使うのも、言われてみれば理にかなっているのですが、日本では見られない使い方として心に残りました。


試食中にハンガリーの文化や歴史、食文化についてのお話も伺いました。

自前の食材を使ったり余らせないことを「コスパが良い」と言いますが、そこに至るまでには沢山の工夫があり試行錯誤あり愛情があり、、一言では言い表せない豊かさがひそんでいる気がします。
素敵な一石三鳥料理をとおしてハンガリーの暮らしの知恵を教えてくださったイベットさん、ありがとうございました。
(文・高田桃子 写真・小端アキコ 無断転載はご遠慮ください。)


